本コラムでは、1.商社・販社における事業の特徴、2.収益管理の方法とポイント、3.ERPシステム導入にあたってのポイントという3つのテーマについて、キーウェアソリューションズ株式会社 松本氏が解説します。

<商社・販社の事業の特徴と今後のERPの方向性について シリーズ一覧>

・第1回:商社・販社における事業の特徴(今回)
・第2回:商社・販社におけるマネジメントのポイント
・第3回:商社・販社のERPシステム検討のポイント

【第1回】商社・販社の事業の特徴と今後のERPの方向性について

本稿では、商社と販社の位置付けと特徴、グローバル化の進展とそれに伴うトレンドを踏まえたERPシステムの方向性について、述べたいと思います。

商社と販社の位置づけ

「皆さんは、商社と販社の違いをご存じでしょうか。
卸売・小売業において「商社」「販社」という言葉はひとくくりにされることも多く、区別無く使われておりますが、厳密に言うと異なります。まずは、我が国における商取引の歴史からそれぞれの意味を明らかにしたいと思います。

まず、商社とは、商品取引を事業の中心とする会社です。
我が国の商社の源流は、海外との取引を仲介する貿易会社であり、明治時代以降、輸出入貿易の拡大とともに商社はめざましい発展を遂げてきました。三井物産、三菱商事などの母体が誕生したのも明治時代であり、元々は財閥系の営業部門でしたが、幅広い分野の商品やサービスを取り扱うようになり事業を拡大し、総合商社と呼ばれるようになりました。メーカが作って商社が売るという形態は日本特有であり、特に、海外との取引においては、商社は言わば「メーカの営業部門」として、重要な役割を果たしてきました。

しかしながら、時代の進展とともに情報網や流通ネットワークが発達し、商社を介在せずに、メーカ自らが輸出入を手掛けることが容易となりました。次第に商社の当初の目的であった貿易の仲介取引の意義が薄れ、「商社不要論」が台頭し、「商社冬の時代」を経て、商社は生き残りをかけて従来型のビジネスモデルからの転換を余儀なくされました。その結果、現在の商社におけるビジネスモデルの主流は、過去とは全く異なるものになっています。現在は、これまでの仲介ビジネスに代わり、M&Aなどにより商社自らが直接投資をして投資先のビジネスに参画する事業投資が主流となってきています。

(出典: 経済産業省 通商白書2012

もう一つの「販社」を見てみましょう。
販社とは、販売会社、つまり販売を専門に行う会社のことを指します。メーカが自社製品の流通を目的として設立した会社であり、代表的な例は、自動車メーカのディーラーなどが挙げられます。メーカの販売部門が独立した会社として営業機能を担うわけですが、前述した時代背景により、製造業が海外取引を行う上で、商社を介在させることなく販売機能を独自に持つケースが増えてきました。

メーカが販売会社を持つメリットは、自社の販売政策の展開や管理が容易であり、マーケティング機能を持つことができることです。

世界経済の急速なグローバル化が進む中、日系企業においてもアジア地域を中心に海外進出が進んでおり、今後さらにその勢いが加速していくことが予想されます。通商白書 2012年版によると、「内閣府「企業行動に関するアンケート」によれば、我が国製造業の海外現地生産比率は上昇傾向で推移しており、2011年には過去最高の18.4%まで上昇した。また、5年前の当年度見通しと比較してみると、おおむね同見通しよりも速いスピードで海外現地生産が進展する」と述べられています。

このことは即ち、今や「商社」ではなく「メーカ」が海外取引の主役となってきているということを意味しています。

商社・販社に共通するのは、モノを仕入れて販売するという利益形態です。業界によって全く異なる慣習や特性を踏まえた案件毎の損益の管理が大変重要になってくるわけですが、これについては次回詳しく述べたいと思います

グローバル化の進展に伴うIT化と今後のERPの方向性

前述のとおり、日系企業の海外進出が進んでいく中にあって、IT化は切っても切り離せない関係にあります。例えば、海外に生産拠点を設置する際、システム導入は必須です。この章では、海外展開におけるIT化及び今後のERPの方向性について述べたいと思います。

海外拠点にシステムを導入する際の主なパターンは、
(1)海外(通常は英語)のシステムを採用する場合

(2)日本のシステムを採用する場合
の大きく2つに分類されます。

海外のシステムを導入する場合において留意しなければならない点は、
海外のシステムの思想は、日本のそれとは全く異なるという点をきちんと理解する必要があることです。
具体的には、1900年代初めから、米国をはじめとした欧米で分業化が進み、各人の業務が細分化・単純化されてきた歴史があります。例えば、フォード社が導入したベルトコンベアを使って作業員が分業して行う、流れ作業による大量生産方式が代表的ですが、この生産方式においては、現場作業員の仕事は知識やスキルがあまり必要とされない単純労働であり、全体がどう流れるかということを、現場では一切考慮されることなく作業が行われることが特徴です。業務システムにおいてもまた然りで、各人の入力作業が業務単位で分離されています。

一方、日本ではそうではなく、できるだけ作業負荷の削減を追求し、全体の生産性の向上を図ろうとします。

例えば、データを一度入力するとシステム全体に反映する機能を盛り込み、二重入力の手間を省くようにするわけです。このような細かいところまで気を配り効率化を目指す日本人の発想は素晴らしいのですが、グローバルな視点から見るとスタンダードから外れていると言わざるを得ません。世界人口60億人に対して、約1/60の人口しかない日本の考え方は、マイナーであることを認識することが重要なのです。

グローバル化を語る上で、「インターナショナル」と「グローバル」と言う2つの言葉があります。この2つの言葉の違いは、自国を軸にして相手国を考えるのか、あるいは地球規模として考えるかによる違いと言えます。

私なりに解釈すると、インターナショナル化は、その国の歴史や伝統を大切にしながら上手く適用していく中でモノを広めていくことであり、洋服の仕立てに例えると「イージーオーダー型」です。

それに対し、グローバル化は、いわば「吊し背広=お仕着せ型」です。

国やマーケットの違いを超えて、世界中の人間に共通するニーズに対して、標準化された商品やサービスを提供することであり、つまるところ「アメリカのスタンダード化」だと捉えています。アメリカでは、事務処理を徹底的に標準化する方向に進んでおり、そういった意味でも、今後、基幹業務に必要な機能を標準化したERPパッケージが益々普及していく流れは不可避であり、「お仕着せ型」に収れんしていくだろうと予想しています。

日本市場も然りで、その一因としては、業務の知識を持った技術者が少なくなったことが挙げられます。というのは、今のSEは、新しい技術に追随し習得することに多くの時間を費やしており、結果として業務に対する学びの時間が少なくなっています。つまり、ユーザーが実際にどんな業務をやっているのか、業務に関する知見を持ったSEが少なくなった結果として、日本のSIベンダーは以前に比べ、自前でモノを作ることができなくなったと言われています。よって、お仕着せ型のパッケージのほうが展開しやすいという背景もあると思います。自前ですべて作るのは、開発だけでなく維持管理や保守にも手間がかかり今の時代にはそぐわなくなっています。

また、先ほど述べたように、日本でつくっている国産のパッケージは、欧米の製品に比べ、作業の効率化も考慮されており、日本的なきめ細かいサポート機能が揃っていますが、その良し悪しは別として、将来的にはグローバル化の進展とともにその機能は消えていくと予想しています。

日本のシステムを海外で導入する際は、言葉の壁が大きな問題です。

ただ単に日本語を英語に翻訳しただけでは不十分で、やはり商習慣や考え方などその国のバックボーンを十分理解した上でシステムを作らないと現地で受け入れられるのは難しいでしょう。

最近では、逆に欧米のERPパッケージが日本的な良さを取り入れてきており、和洋折衷とも言えるパッケージにだんだんと進化しています。

皆さんの中には、お仕着せのパッケージが普及するようになるとERP製品として差別化をどう図るのか?或いは、ERPの良し悪しはどこで見分けるのか?など気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私がERPにおいて最も重要だと考えるポイントは、技術基盤です。しっかりした技術基盤はそう簡単に出来るものではなく、仕立ての良い洋服と同じで、結局のところ長持ちします。業務アプリケーションは、時代の進展やOSのアップデートなどにより追加・修正されますが、技術基盤は頻繁に入れ替えるという考え方ではなく、ある程度長く使ったら、次は全部新しくするというつもりで考えると良いと考えます。

以上、商社と販社の位置づけとグローバル化、及び今後のERPの方向性について述べました。
次回は、商社・販社におけるマネジメントの特徴について解説いたします。

(第1回おわり)

(文責:Biz∫マーケティング担当)

解説者:キーウェアソリューションズ株式会社 エグゼクティブ アドバイザー 松本 繁夫

三菱商事にて、SAP導入プロジェクトのプロジェクトマネージャとして基幹システム全般の構築に従事。又、米国三菱商事時代には複数のERPパッケージを米国の流通子会社や 製造関連会社に導入。
その後、キーウェアソリューションズ株式会社を経てMITコンサルティング株式会社を設立し、代表取締役に就任。
今までの豊富な経験とERPパッケージの専門的知識を生かし、複数のIT企業の役員や顧問として多数のプロジェクトに従事している。