企業の基幹業務に重要な役割を果たすERP。長い歴史を持ちますが、その使われ方は時代の変遷に伴って変化してきました。本稿では、ERPの概要、変遷からERP製品導入のメリットまで解説します。

ERPとは?基幹システムとの違い

ERPとは、Enterprise Resource Planning(企業資源計画)の略であり、適切な企業経営や意思決定を行うために、企業経営にて重要となる資源、すなわち「ヒト、カネ、モノ、情報」を一元管理する考え方を指します。しかし、現在では「ERP」という言葉単体で、その考えを実装したシステム、すなわち「ERPシステム」を指すことがほとんどです。

企業によっては、上記の4つの要素は、それぞれの別々の仕組みやシステムで管理されることがありますが、それでは情報がサイロ化してしまう可能性があります。そこでERPは、データを1つのシステムで一元管理することで、各情報をシームレスに連携させ、経営者が素早く的確な意思決定ができるように支援します。

ERPは一般的に基幹システムと混同されがちです。基幹システムはその名の通り基幹となる業務を支えるシステムですが、そこには「ヒト、カネ、モノ、情報の一元管理」まで必ずしも含有されているとは限りません。場合によってはシステムが業務に最適化されて独立して存在し、データベースなどもバラバラになっていることもあります。しかし、ERPでは先述の通り、情報の一元化による経営視点での全体最適化を目的としており、それが両者の決定的な違いとなっています。

ERPは基本的に基幹システムと扱われることになりますが、基幹システムだからといってそれがERPによって構築されているわけではないということです。

ERPの機能と、ERPのメリット

 繰り返しになりますが、ERPは「ヒト・モノ・カネ・情報」を統合的に管理するためのものです。つまり、ERPと呼ばれるものには、これらの要素をカバーするために、一般的には以下の機能を備えています。

・人事(ヒト)…従業員情報や給与計算の機能など
・販売・購買・在庫(モノ)…売上・見積・請求、在庫、出荷、調達・購買に関する機能など
・会計(カネ)…財務会計や管理会計、債務・債権管理の機能など

もちろん、上記は最小限の要素であるので、実際のERP製品には、生産管理や物流、倉庫などに関するサプライチェーン管理を備えていたり、顧客管理、営業管理などCRM(顧客関係管理)システムに近い機能を有していたりするものもあります。   

ERPのメリットは、冒頭で少し触れたようにデータを一元管理できることにあります。例えば販売管理の方でデータに変更があれば、それはそのまま会計のシステムの方までシームレスに連携されます。また複数の拠点を持つ企業にもメリットがあるでしょう。例えば全拠点の販売情報や、製造業であれば全工場の生産管理の情報などを一元的に把握できるために、データを集約・集計する手間や時間が不要になり、リアルタイムに的確な経営判断ができるようになります。

ERPの歴史と変遷

ERPは歴史とともに企業へ導入のされ方も変わってきました。業務システムへの考え方と合わせてERPはどのように変わってきたのか、その簡単な変遷を見てみましょう

ベスト・オブブリードからベストプラクティスへ

1990年以前は、まだERPによる一元管理の考えは一般的ではありませんでした。企業へのIT導入が進み始めた当初は、個別業務の最適化に適したシステムを業務・部門単位で導入する「ベストオブブリード」の方式にてシステム構築が行われていました。しかし、個々のシステムが分断されていることから、多くの課題が残った時代とも言えます。

1990年から2010年代にかけては、欧米を中心に「ベストプラクティス/モダンERP」という考えが広まってきました。ERPによる標準化された業務モデルを適用し、経営視点で最適化された統合型システムを導入しようという考えです。この場合、システムに業務プロセスをあわせていく形となります。

モダンERPの概念図

しかし、日本では業務プロセスが独自の慣習に基づく商取引が強かったことからERPの標準機能やベストプラクティスを全業務に適用するという考えは広まりませんでした。そのため、ERPをそのまま導入するのでなく、アドオンやカスタマイズを大量に加えて導入することが多いという結果になりました。

ポストモダンERPからコンポーザブルERPへ

2010年以降はこうした過去の失敗に基づき、記録・差別化・革新という3つのレイヤーに分け最適なシステムを導入する「ぺース・レイヤー戦略」によるERP導入を行うケースが見られました。つまり単一のERPですべての業務をカバーするのではなく、例えば企業ごとに競争優位が生まれない業務領域(会計など)にはERPのパッケージの標準機能を用い、差別化領域にはカスタマイズやアドオン追加を施したり、別のパッケージを連携させたりする考えです。

また、ガバナンスやスケール、費用対効果を鑑み、親会社のERPを軸に、グループ会社には別のERPを導入する「2層型ERP」を採用する例も増えてきました。

ポストモダン型ERPの概念図

今後のERPについては、ガートナー社が2020年に提示した「コンポーザブルERP」というコンセプトが普及する可能性があります。これはERPを軸としつつ、業務部品を自身で組み上げてERPに連携して業務モジュールを作る仕組みです。つまりERPが単に業務機能を提供するのでなく、APIや連携基盤を提供してすることでコンポーネント基盤としても機能するということです。

ERPの導入方式

クラウドかオンプレミスか

システム構成、導入の方式という観点からは、ERPの場合は、オンプレミスでもクラウドでどちらの方式でも導入されます。歴史の長いパッケージ製品であるため、もともとはオンプレミス製品として開発され、現在でも同形式のERPを活用している企業が多く見られます。

クラウドでERPを導入する際には、2種類の方式が考えられます。1つは、クラウドインフラ(IaaS:Infrastructure as a Service)を利用して、基盤の部分だけをクラウド化し、その上にオンプレミスと同じERPパッケージ製品を構築していく方法です。これはクラウドを利用しつつも、実質的にはオンプレミスのERPを導入して利用するのに近い考え方です。

もう1つは、始めからクラウドサービスとして設計されているERP、つまりSaaS型のERP(クラウド型ERP)を導入するということです。これはERP事業者のクラウド環境から提供されるシステムをWebブラウザからインターネット経由で利用するということになります。

オンプレミス型ERPやクラウドインフラにERPをホスティングする方式では、自社の業務に応じたアドオン追加や既存のシステムとの連携など、柔軟なシステム構築ができるメリットがあります。しかしその反面、導入・構築の手間やその後の運用の手間がかかるデメリットがあります。

逆にクラウド型ERPは、利用開始までのリードタイムや導入コスト、導入構築の手間は大幅に削減されますが、自社の業務に応じてERPをカスタマイズすることはあまり期待できず、他システムとの連携も場合によっては制約が生じることもあります。

要件や業務が複雑、また大人数のユーザーが使用するために、システムにパフォーマンスが求められる大企業では、オンプレミス型のERPの方がフィットしやすく、逆に業務の独自性が少なくERPに業務を合わせやすい企業はクラウド型ERPが適しています。

パッケージベースかスクラッチベースか

システム構築の方式ではベンダーが提供しているERPパッケージを利用するか、スクラッチ開発をするかという2種類の方式があります。

もちろん、人事、会計、販売などの多岐にわたるERPの機能をすべてフルスクラッチ開発するという選択肢は今日ではまれなケースなので、上記を正確に表すと、基幹システムを構築する際にERPパッケージをベースにするか、スクラッチ開発をベースにするかということを指します。ERPの機能全体をスクラッチ開発で再現するという意味ではありません。

パッケージ製品を利用すれば、業務に必要となる機能がすでに用意されているのでコストや構築の手間が削減されますが、自社独自の習慣や業務に対応できない可能性があります。

一方スクラッチ開発では、自社ビジネスや業務にとって最適なシステムをオーダーメイドで構築できる点が特徴です。ただし導入コストや工数は多くかかる点がデメリットと言えます。近年ではパッケージ導入をベースとする開発が主流ですが、ローコード開発プラットフォームの進化もあり、大規模なものでなければ、同プラットフォームベースに基幹システムを構築している企業もあります。

ERPの導入・選定方法

ERPを導入する際は、以下のようなプロセスを踏むことが一般的です。

導入目的と達成条件、適用業務の明確化

ERP導入の第一歩として、自社が新たにERP導入を検討した経緯や本プロジェクトを成功とみなす条件、適用範囲、改革したい業務、予算、仮のスケジュールなどを整理し、ベンダーに伝えましょう。明確に記述することで、ベンダーと発注者間での認識の齟齬を防ぎ、プロジェクト後に進捗が遅れてしまったり、要件の後出しによってコストが膨らんでしまったりするリスクを避けられます。

そのためには、現状どのような業務を行っているのかというAs-Isを示すことはもちろんですが、どのようになりたいかというTo-Beを自社にて議論することも重要です。また、単に「どのような機能が必要か」ではなく「なぜその機能が必要か」まで考えることが重要です。目的を達成したいのであれば、業務プロセスを変えることで必ずしも現状用いていたシステムと同様の機能を使う必要がなく、より柔軟な導入・実装が可能になります。

製品やベンダーの比較検討・選定

自社に必要なERPの要件を洗い出し、ベンダーからの提案を受けた後、そこからさらに製品を絞り込んでいくことになります。

ERPは長期的に使用して自社を支えるシステムとなるため、自社の事業変化、外部環境変化に追随できる仕組みはあるか、長期にわたりERPを継続利用するために、ベンダー側でどのような取り組みを行っているか、本当に信頼できるベンダーかなど、総合的に判断する必要があります。

最近では、自社の業務に合わせてERPにカスタマイズやアドオン開発を行うよりもパッケージに業務を合わせて導入する企業も多くなっているので、自社の目的を達成できる機能を標準機能としてどれだけ備えているか、という判断軸で選定する企業も見られます。

細かい機能の有無や強みとするポイント、どの企業規模に適しているかは各ERPによって異なります。なるべく標準機能で導入しようという考えが強くなってはいますが、企業の複雑な業務を完全にパッケージに合わせることが難しいケースも多いので、ERPを選定する場合は、自社固有の要件へどのような方法で対応できるか確認しておくことも必要でしょう。

なお、NTTデータ・ビズインテグラルが提供するERP「Biz∫」の場合は、複数のグループ企業の統制、情報の一元化を支援する豊富な機能を備えていることや、ワークフローエンジン、開発ツールを標準搭載していることなどから、ERPのもつパッケージ機能をベースとしながらも、さまざまな業務プロセスへ組み込みやすいことなどが特徴です。

プロジェクトチームの立ち上げと要件定義 

契約後はプロジェクトチームを立ち上げ、まず要件定義を行い、どのようなシステムを構築していくかを明らかにしていきます。ERPは関係する部署が多岐にわたるため、それぞれの業務領域に精通している担当者を交えながらプロジェクトチームを組み、綿密に議論を行っていきます。

ERPなどを含むパッケージ製品を導入する際には、現状の業務もしくは自社が新たに実現したい業務と製品仕様がどれだけ合致しているかを調べる「フィット&ギャップ分析」を行う必要があります。

またどのような機能が必要かという点はもちろん、パフォーマンスや運用性、可用性、セキュリティなどの「非機能要件」についても明らかにしておく必要があります。それによってどのようなハードウェア、ソフトウェアを使うかといったシステム構成も変わってきます。

導入・構築・リリース

要件に沿って導入していき、ERPに必要なパラメータを設定したり必要に応じてアドオンの開発を行ったりしていきます。周辺システムがあれば、そのシステムと連携するためのインターフェース開発も行っていきます。現行のシステムからデータ移行作業、移行のためのプログラム作成が必要になることもあります。

その後、実際にシステムを利用する業務部門のユーザーにも協力してもらいながら、単体テストや周辺システムとの結合テスト、ユーザー受け入れテストなどを行い、システムが問題なく業務に利用できるかを検証していきます。 

リリースに関しては、データ移行が済んでおり、必要なユーザーの設定がなされているか、システムが問題なく動作するかを確認することはもちろん、実際に従業員がスムーズにシステムを使えるようトレーニングする期間を設けることも必要です。安定して運用できるようになるまでに時間がかかるため、スケジュールには余裕を持たせておきましょう。

ERPの活用事例と効果

ERPを導入することで得られる具体的なメリットの一例を示すために、ここではBiz∫の導入事例をベースに導入の目的や効果、活用イメージを解説します。

鉄道関連企業の導入事例

この企業では、百貨店やホテル事業など多角化経営を進めており、外資系ERPをベースに自社向けカスタマイズを行ったグループ複数社のシステム保守期限が近づいている状況で、以下のよう課題を抱えていました。

・グループ各社がバラバラなシステムを運用しており、決算業務の負荷が高い
・既存のシステムでは事業拡大や変化に対応するための将来性・柔軟性が十分でない

同社はBiz∫を全社的に導入して経理業務の平準化を図りました。これにより、決算業務を行う経理部門や業績管理業務を行う経営企画部門は同ERPを活用することで全社共通の分析や事業部ごとの分析を行えるようになるなど、データを有効活用できる基盤を構築できました。

ドラッグストアチェーンの導入事例

この企業は以前から分散した帳簿をシステム上に集約して運用していましたが、業界特有のシステムの使い方を実現できておらず、以下のような課題を感じていました。

 ・参照したいタイミングで情報が可視化されていないため、判断に時間がかかる
 ・小売業特有のシステムの使い方に適した基幹システムを構築したい

こうした課題のほかに、間接部門の人件費を増大させず業務を効率化させながらビジネスを拡大するためのシステム基盤を求めていた同社は、すでに導入していたBiz∫をバージョンアップ。情報の可視性が向上したことで、数日間かかっていた月次業務の書類作成は、システムから即座に出力されるようになり大幅に効率化されました。またERPをベースに今後はRPAを組み合わせることで業務効率化をさらに推進する予定だといいます。

「Biz∫」の導入事例一覧はこちら

まとめ

ここではERPの概要とその成り立ちから、導入のステップ、導入の一例などを紹介してきました。ERPにはさまざまな種類があり、自社にどのタイプが適しているかは自社の要件や目的を明らかにしながら慎重に決めていく必要があります。NTTデータ・ビズインテグラルでも、これまで1,500社以上の企業に導入されたERPであるBiz∫を開発・提供していますので、ぜひ基幹システム刷新の際の選択肢としてご検討いただければと思います。