【第3回】ERPシステム検討のポイント

これまで2回にわたり、商社・販社における事業の特徴、及び商社・販社におけるマネジメントについて解説しました。本稿では、ERPシステムの導入を検討されている皆さまに向けて、導入にあたっての留意点について述べたいと思います。

<商社・販社の事業の特徴と今後のERPの方向性について シリーズ一覧>

・第1回:商社・販社における事業の特徴
・第2回:商社・販社におけるマネジメントのポイント
・第3回:商社・販社のERPシステム検討のポイント(今回)

【第3回】ERPシステム検討のポイント

システム検討時の留意点

ERP導入の成否を左右するカギはどこにあるのでしょうか。

これまでの経験から申し上げると、ERPシステムの導入が失敗するのは、かなりの確率で発注側の責任に起因しています。システム導入がうまくいかない典型的な例は、システム品質の問題と納期の遅れ、それに伴うコスト増加です。勿論、失敗の責任はベンダにもあるのですが、発注側に大きな責任があるということを認識すべきです。

本稿では、ある会社での失敗例を元に、どのようなところが問題となるのかを検証していきたいと思います。

某社が基幹業務システムの見直しをして、大規模な入れ替えを検討していましたが、予定より数年遅れたカットオーバーを余儀なくされました。その結果、当初の予算をかなりオーバーすることとなりました。

プロジェクト責任者である情報システム部門の判断ミスが失敗の原因ですが、それは以下の3つに大別できます。

(1)導入するERPの技術検証不足

ERPシステムを構築する場合、まずその企業の事業活動内容に適したERPを選択する必要があります。ERPは投資額も大きく、途中でシステムを変えることは、コスト、労力そしてスケジュール面からも絶対避けるべきことです。そのためには、自社の現状を十分に調査分析し、その上で企業の特性に合った最適なシステムを選択し、ある程度の期間を設けてきちんと技術検証をすべきだと考えます。

私は、過去に大規模なERPシステムの社内導入を手掛けましたが、最初に半年かけてプロトタイプを作り、デモバージョンとして社内で利用しました。しかしながら、本番のシステムの構築の際は、プロトタイプを捨てて、全く新しいものを初めから作りなおしました。これはどういうことかと言うと、一回つくったものをつぶすくらい、徹底的に検証しなくてはならないということです。特にシステムが大規模になればなるほど、きちんと技術検証をしないと後戻りが非常に難しくなります。

(2)導入スケジュールのミス

基幹システムを上から下まで一気に変えられればベストですが、一歩間違えば大混乱の元であり、自社の状況を踏まえて、段階的な導入という判断を下すことも大切です。

この会社では、営業系と会計系の仕組みを同時カットオーバーすることを、ユーザである利用部門が望んでいたため、一括導入という決定に踏み切りました。確かに、段階的な導入はユーザにとって一時的に不便を強いられることとなりますが、全体の作業負荷を分散しスケジュールに余裕を持たせることができるというメリットがあります。どちらの選択が良いかは、置かれた環境にもよりますが、この会社では限られた期間の中で本当に一括導入が実現可能なのかを発注者が把握できておらず、ベンダにもその裏付けをとっていなかったことが失敗の原因と言えます。

(3)ユーザニーズをまとめきれていない

前回のコラムで、商社は営業各人の裁量が大きいとお話しました。商社で取扱う商品やサービスは多岐にわたり、部門毎にビジネスのやり方が全然違います。裏を返せば、営業担当者は自分の担当する業界については精通していますが、それ以外の業界についてはよく把握していないのが実態です。全ての業界についてよく知っているという社員はほとんどいません。従って、会社全体としてのユーザニーズを断言できる人間がいないわけです。

各現場の担当者にヒアリングして終わりというのでは、プロジェクトは必ず失敗します。

私が考える失敗しないための重要なポイントは、会社全体としての幹となる標準機能を判断し、枝である業種特性を割り切って捨てていくことであり、それを自ら旗を振って強力に推進するリーダーシップを持った人間が絶対に必要だということです。

私の経験談となりますが、以前社内のERPプロジェクトを統括したとき、各部門にユーザヒアリングをしたいという外部コンサルタントに対して、ユーザは自分であると言いました。なぜかというと、各部門の一部の営業担当者にヒアリングしても会社全体のニーズを把握することはできないことを知っていたからです。

私は、経営と相談してシステムの入力項目を全部見直し、結果、以下の3種類のシンプルな構成としました。

  1. 取引先に関する項目はビジネスそのものであるため削らない。
  2. 経理上必要な会計項目や予算推移など社内の統計に必要な項目は残す。
  3. 上記1、2を入力するための最低限の入力補助項目は残す。具体的には、数量×単価などの計算式です。

それ以外の項目は、システムから削りますと言ったら社内はひっくり返りました。結局各部門から押し戻しがあり、50機能を削るつもりが20機能については入れることになりました。こうしたいという明確な考えの元に、強いリーダーシップを持って進めると、皆も協力してくれるようになるというのが私の経験から得た教訓です。

以上、プロジェクトが失敗する3つの原因を述べてきましたが、お分かりのように、いずれも発注側の責任に起因することが大きいと言えます。もちろんベンダとよく相談するのは大切です。

私は、仮に発注側にこうしたシステム導入を統括できる人材がいないのであれば、新たに雇って強化すべきであり、発注者側の大きな仕事であると考えます。

ベンダの選択方法

次に、ベンダの選択方法を述べたいと思います。

私が一番重要と考えるのは、ベンダとの信頼関係です。どんなビジネスにも当てはまりますが、会社というより人が重要なのはERP導入においても変わりません。

具体的には、下記が挙げられます。

  • 発注側の求めるニーズに技術的に対応できるベンダを選ぶ。
  • 自社のシステム体系や導入スケジュールに合ったベンダを選ぶ
  • ベンダー側からきちんとアドバイスをもらう。できないことはできないと言えるベンダを選ぶ。
  • 安かろうは悪かろうは最悪である。

RFPを読んだだけで企業の求めるものを完全に理解することは、どのベンダにとっても難しいと思います。そういう前提に立つと、ベンダは、見込で対応可否を判断するわけです。ベンダーやコンサルティング会社から提出された○×表だけで判断するというのが、如何に危険か分かるでしょう。ベンダーを起用する際は、1社だけでなく、複数会社からの提案を十分に比較することが重要です。

私がコンサルティング会社の○×表を比較した際は、会社によって回答が異なった項目について、コンサルタントにその理由をヒアリングし、こちらの考えている内容を再度説明して検討し直してもらいました。要は、コンサルティング会社の理解度を把握するために行ったことです。回答が同一になったとき、こちらの要件を本当に理解してくれたと判断しました。

以上、ERPシステムの導入を検討されている皆さまに向けて、導入にあたっての留意点について述べました。

最後になりますが、ERPが時代とともに進化していくことは間違いありません。新しいアーキテクチャのシステムもどんどん出てくるでしょう。Biz∫は、intra-martの基盤技術とSCAWの業務ノウハウが融合しており、中堅企業向けのERPとして優れたシステムであると思います。さらに進化して更に世の中に役立つシステムとなっていくことを願っています。

(第3回おわり)
(文責:Biz∫マーケティング担当)

解説者:キーウェアソリューションズ株式会社 エグゼクティブ アドバイザー 松本 繁夫

三菱商事にて、SAP導入プロジェクトのプロジェクトマネージャとして基幹システム全般の構築に従事。又、米国三菱商事時代には複数のERPパッケージを米国の流通子会社や 製造関連会社に導入。 その後、キーウェアソリューションズ株式会社を経てMITコンサルティング株式会社を設立し、代表取締役に就任。 今までの豊富な経験とERPパッケージの専門的知識を生かし、複数のIT企業の役員や顧問として多数のプロジェクトに従事している。